冬の朝

いろいろ細かく設定をいじりたいのに、基本的にはオートで撮影するカメラなので、細かい設定ができなかったのです。で、いろいろと細かく設定ができそうなデジカメを探していたのですが、なかなか見つからない。すると、あるときネットで一眼レフデジカメの中古を販売しているサイトを見つけたのです。「これだ！」とひらめき、その翌日には中古販売サイトの実店舗までおもむき、キャノンのD30を購入してしまいました。

一眼レフカメラはカメラ本体だけでは撮影できません。別売りのレンズが必要です。このレンズが高いものから安いものまでピンキリで、どんなレンズがどの程度いいのかさっぱりわからなかったのです。そこで、店の人に相談して、やはり中古の安いズームレンズを購入しました。これで撮影の体制はOK...なのですが、それまで使っていたデジカメのように気軽に使えないのです。というのも、それまで使っていたデジカメは多少サイズが大きめでしたが、例えば仲間内の飲み会なんかに持って行ってスナップを撮影したりする用途にはピッタリのものでした。しかし一眼レフだとそうはいかないのです。というのも、ボディにレンズをつけるとサイズがけっこうでかいので、率直な話、恥ずかしいのです。いや、みなさんよく考えてみてくださいよ。例えば和民みたいな店で飲んでたとするじゃないですか。すると隣のテーブルにいる20代後半ぐらいの男がいきなり一眼レフカメラを取り出してバシャバシャ撮影し始めたらどう思います？かなり不振人物でしょ。しかも普通のデジカメだったら撮影するときに音が全くしないのですが、一眼レフだとシャッターの開閉音がけっこうでかいんですよ。これがまた目立ってしょうがないんですね。というわけで、一眼レフカメラは気軽には使いづらいものなんですね。

では何を撮影しようと考えてみました。そのとき、一つ思ったのは「富士山を撮影するのはやめよう」ということでした。いや、別に撮影したってよかったんですが、富士山ってもはや撮りつくされてる感があるじゃないですか。いろんな写真集にもなってますし、ネットでもかなりのシチュエーションでいろんな表情の富士山が掲載されていたりします。今さら僕が撮影したって安直なものにしかならないから、わざわざ撮影するのはやめようと思ったわけです。「でも今日の写真って...」って思った方、もうちょっと待ってください。そこに至るまでの過程がまだあるのです。

何度も書いていますが、僕の前の仕事はテレビの制作なのですが、うさわ通り徹夜が多い職種なのです。天王洲アイルの会社でよく徹夜をしてました。朝方までなにがしかの作業をし続けていると、窓の外が徐々に明るくなってくるのがよくわかるのですね。で、幸か不幸か会社からの朝日ってすごく綺麗に見えるのですよ。オフィスの東側に窓があって、外には台場が見えるのです。そこから朝日が昇ってくるのですが、その光景はかなりいいのですよ。当然ながらそんな朝日の写真は何枚か撮影してみました。当時、カメラは会社に置きっぱなしにしていることが多かったので、すぐに撮影ができたのです。朝方まで作業して、早く寝ればいいのに、ついつい綺麗な景色が目に飛び込んでくると撮影したくなっちゃたんですよね。でもそんな朝日も何度も見ていれば飽きてくるわけです。台場の朝日に慣れきって、撮影したくもなくなったある日、たまたま自動販売機で飲み物を買おうとエレベーターホール前を通ったのです。エレベーターホールからは西側の景色が見えるのですが、そこに冬の澄んだ朝の空気の中、遠くに堂々たる富士山が見えたのです。その瞬間、走って自分のデスクに戻りカメラを持って富士山の見える窓際に向かいました。そうやって撮影したのがこの一枚です。

いやいや、やっぱり富士山ってすごいですよ。見た人間を虜にする魅力を持ってますね。だいたいこの写真を撮影してるとき、「富士山は撮影しないようにしよう」ってかつて思っていたことなんて完全に忘れてましたから。まだまだ写真の腕も未熟、機材も今ほど整っていない時期に撮影したものですが、けっこう綺麗に撮影でき、当時は自分なりにかなり満足度の高い一枚となりました。