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2006年4月21日
恐怖の池袋物語-第4夜-
恐怖の池袋物語もついに最終回の第4夜をむかえました。最初、この企画を思いついたときは、あまりのリアルな話でみなさんから「ドンびき」されないかどうか不安だったのですが、何とか毎回リアクションいただきながら最終回を迎えることができました。最終回の舞台はまたしてもサンシャイン。当時僕は「天文台」というテーマで番組を作っており、古今東西の天文台、はたまた一般の天体望遠鏡までを調べまくってました。そして例によってまた天文台とは何ぞやということを表現できる実験を考えなければなりませんでした。
天文台って言うと何やらわかりにくくなりますが、端的に言えば巨大な天体望遠鏡です。この望遠鏡とは何たるものなのか番組内で解き明かしていかなければなりませんでした。天文台にしても天体望遠鏡にしても基本的に星を見るものです。でも星なんて太陽や月、惑星をのぞけば基本的には点しか見えません。では、この望遠鏡で地上を見ると、どの程度遠いものまで見ることができるのか、実験してみたいということになったのです。でも、これを普通に「新宿から富士山が見えた」なんていう程度で終わらせることはできないのです。テレビはわかりやすさが命です。「天体望遠鏡で遠くを見る」というシチュエーションだけでひと笑いできるぐらいの展開を考えなければならないのです。そこでどのようなシチュエーションがいいか考えていると、やはりまたディレクターが思いつきで僕にこう言ってきました。
「サンシャインの屋上から東京ドームの屋根の上に立った人間のホクロが見えないかな?」
「......」
ディレクターの言うことは基本的に全て思いつきです。でも、確かにそのシチュエーションはおもしろいのですが、ここで問題があるのです。さすがにホクロをアップでとらえるのは家庭用の天体望遠鏡では無理なのです。これはディレクターを必死に説得することでなんとか納得してもらうことができました。もう一つの問題は「東京ドームの屋根の上に立つ」ということです。そもそもそんなことやっていいのかどうかわかりません。とりあえずディレクターが言ったことは神の言葉よりも重いので、一応できるかどうか確認するため、「株式会社東京ドーム」に電話してみました。
「天文台というテーマで番組を制作しておりまして、望遠鏡がどの程度遠くのものを見ることができるのか番組内で実験してみたいと思っております。その実験を御社にご協力いただき行わせていただきたいのです。具体的には東京ドームの上に人間を立たせて、その人をサンシャインの屋上から望遠鏡で見るということをやってみたいと思っているのですが、ご協力いただけないでしょうか?」
「え?」
そりゃ「え?」って言いますよ。どんなにまわりくどく言っても、要するに「東京ドームの上にのぼらせて」って言ってるわけですからね。
「それって東京ドームじゃなくて他の場所でもいいんじゃないですか?」
おっしゃる通り!
「そもそもお受けすることはできません」
というわけで、見事撃沈です。一応、かなり粘ってはみたのですが、やはりダメでした。この文章では僕がけっこうアッサリあきらめたように感じるかもしれませんが、僕はどこかに何かをお願いするとき、「お願い聞いてくれなきゃこの場で今すぐ死ぬ!」という勢いで交渉をします。それでもダメなものはやはりダメなのです。ディレクターに報告すると、案の定罵倒されまくりました。
「なんでお前は粘らねぇんだ!」
そう言われましてもダメなものはダメなのです。罵倒にはもう慣れているので、そのあたりは聞き流して現実的な路線を提案します。そしてすったもんだのあげく、東京ドームと隣接する東京ドームホテルの最上階だったらよいということになりました。こちらの交渉もけっこう手間取りましたが、なんとかムリヤリOKをもらうことができました。ちなみにロケを行う時間は日の出すぐということになりました。というのも、都内は基本的に空気が汚いので日中でも見通しが意外と悪いのです。そんな都内でも最も空気がキレイになる時間帯が日の出直後なのです。そこでまたしてもディレクターがこう言ってきました。
「どのくらいの視界なのか、お前事前に一回見てこい」
「......」
これってそーとーハードルが高い話なのですよ。サンシャインと東京ドームホテルの双方に早朝からロケをお願いするだけでも大変なのに、事前にさらにもう一回加わるわけですからね。しかしやらないわけにはいきません。双方にあらためてお願いの電話をします。すると東京ドームホテルは完全にNG。もしやるなら本番ロケをなしにするとまで言われました。仕方ないので東京ドームホテル側には折衷案として最上階レストランのサンシャインが見える側の窓際に、前日の閉店時に目印となる「リンゴ」を置いといてもらうことにしました。
もう一方のサンシャインに連絡します。今回の4夜連続特集でもたびたびサンシャインの名前が出てきますが、これ以外にもサンシャインでのロケはけっこうやっているのです。なぜサンシャインなのかというと、サンシャインはテレビの撮影に対して非常に協力的なのです。なので、「高い場所」とか「水族館」なんていうロケを行うときはサンシャインにお願いすることが多かったのです。そんなサンシャインですら、さすがに今回のお願いは渋っていました。というのも、日の出の時間帯、このときで言えば5:00ごろなので、準備時間も含めて4:00にはサンシャインに入らせてもらわなければならないのです。サンシャイン側としてみれば警備のために誰か一人がついていなければならないのです。そんなわけで、大変渋られてしまったのですが、なんとかムリヤリOKをもらうことができました。
というわけで、いよいよ下見当日。4:00にサンシャインに入らせてもらいます。さすがに屋上は警備上NGをくらってしまったので、今回は60階の展望台で下見をさせてもらうことになりました。真っ暗で電灯が全て消えた状態のサンシャインの展望台に入ったことある人というのはなかなかいないと思いますが、ホントに真っ暗なのです。そんな中、手探りで天体望遠鏡を組み立てて東京ドームホテル側にセットして日の出の時刻を待ちます。
いよいよ日の出の時刻、東の空が白々と明けていきます。今思えばヒジョーに美しい光景だったのですが、当時はそれどころではなく、東京ドームホテルに全ての神経を集中させていました。そして太陽も出てきて辺りが明るくなってきたとき、ついに東京ドームホテルのリンゴを確認できました。望遠鏡にとりつけたデジタルカメラで見え具合の写真を撮っておきます。ちなみに、今日の写真はまさにサンシャインの展望台から東京ドーム方面を撮影したものです。ただ、当時撮影したものではなくて、つい最近あらためて撮影したものです。
スタッフルームに戻ってディレクターに写真を見せたところ、珍しく好感触でした。これでロケ当日はバッチリだ!と思っていたのですが、世の中はえてしてうまくいかないようにできているものです。局のプロデューサーと構成の最終チェックをしているとき、このような一言が飛んできたのです。
「サンシャインから東京ドームホテルを望遠鏡で見るブロックっていらないんじゃない?」
一瞬にして身体中から変な汗が噴き出してきました。僕の下見がムダになるのは全くかまわないのです。いや、厳密にはムカつくのですが、それよりも何よりも、これだけムリヤリ交渉してイヤイヤOKしてくれたサンシャインと東京ドームホテルに「ロケがなくなりました」って伝えることを考えると、背筋が凍り付く思いでした。しかし必要ないものを撮影に行くわけにもいかないので、ちゃんと断りました。こういうとき、僕はあたかも「この世の終わりが訪れた」かのような悲壮感を醸し出しながら話をします。当然のことながら先方の担当の方はヒジョーに機嫌が悪くなってました。しかしそれをも上回る勢いで僕が「今すぐ切腹します!」ぐらいの勢いで話をして、何とか納得してもらいました。
これだけ「テレビの仕事は過酷だった」っていう文章を書くと、僕があたかも「テレビの仕事を忌み嫌っている」ように感じるかもしれませんが、決してそんなことはないのです。僕にとってテレビの仕事は苦痛9割、楽しさ1割といった比率だったのですが、その1割の楽しさが他では決して味わうことができない「濃い」楽しさだったので、ついつい日々の激務を忘れ、7年間もこの業界でがんばっていくことができたのです。
みなさんが今後テレビを見るとき、もしかしたらふと今回の4夜連続特集の話を思い浮かべて「スタッフも苦労してるのかな?」なんて思うことがあるかもしれませんが、そんなことはきれいサッパリ忘れていただいて気軽に見てくださいね。スタッフは視聴者に気軽に楽しく見てもらえることを一番望んでいるのです。そのために、このような苦労を重ねているわけですから。
アップロード日時 : 2006年4月21日 00:07 撮影場所 : [ 豊島区 ]
地図
撮影詳細情報
撮影情報 | |
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撮影場所 | サンシャインシティ サンシャイン60 展望台 |
撮影日時 | 2006年4月15日 17:34 |
カメラ情報 | |
カメラ | Canon EOS 20D |
フォーマットサイズ | APS-C |
ISO感度 | 100 |
露出プログラム | 絞り優先AE |
露出補正 | -4/3EV |
露出時間 | 1/3200秒 |
レンズ情報 | |
レンズ | EF24-70mm F2.8L USM |
焦点距離 | 24mm |
絞り | f/2.8 |