東京駅特集-第1夜- 新幹線ホーム

毎日大勢の人が行き交う場所であり、基本的に留まる場所ではないため、なんとなく寂寥の念すら感じるのですよね。中でも東京駅は関東近郊の方々の乗り換え駅であると同時に、日本各地に路線を結ぶ一大ターミナル駅でもあるんですよ。こういう性格を持った場所って日本広しと言えども、他にはないと思うのです。空港は基本的に遠距離移動だけのための場所。バス停の場合は長距離バスと近郊バスとありますが、規模感からすると駅とはとうてい比べものになりません。言ってみれば東京駅は近郊と遠距離の要素が複雑に絡み合うカオスのような場所のような気がするのです。ということで、今週は5夜連続特集「東京駅」という企画を組んでみます。第1夜目の今日は「東海道新幹線のプラットホーム」です。

「東海道新幹線のプラットホーム」なんて東京駅ではベタすぎるぐらいの場所だと思うのですが、それにしても不思議とワクワクさせてくれる場所なんですよね。このホームに立つと「これから自分は旅立つんだ！」という気持ちがふつふつとわき上がってくるのです。山手線に乗るのとは違い、新幹線に乗るということは日常の生活から切り離された遠くの街に向かうということに他なりません。プライベートでの移動でも仕事の移動でも、遠くの街に行くというのは何かしら感じるものがあるわけです。

逆に新幹線で到着するときもドキドキするものです。地方出身者の方だったら経験あると思うのですが、「これから東京で働く」ということで、新幹線で東京に向かい、ホームに降りる瞬間って何か感慨深いものがありませんでしたか？これからの生活に対する期待や不安のようなものが入り交じって、言葉にならないような不思議な感情がわき上がってきたものです。このあたりの感情の機微は、これまで多くの歌で語られてるんですよね。例えば槇原敬之の「遠く遠く」という歌って知ってます？この歌の最初の方で東京駅について歌われているんですよ。

♪「外苑の桜は咲き乱れ この頃になるといつでも 新幹線のホームに舞った 見えない花吹雪思い出す」

社会人になって何年か経つけど、初めて東京駅に降り立った瞬間のことを今でも思い出すということですよね。すごく実感のある内容です。これ以外にも東京駅の新幹線ホームを舞台にした歌ってかなり多いですが、それもわかるような気がします。だってすごくストーリーを作りやすいですからね。地方から出てくる人にとってみれば仕事をするために東京を訪れるというのは多かれ少なかれ人生の転機ということ。その切り替わりのタイミングが東京駅に降り立った瞬間なわけですからね。

さらに言うと、その昔、「シンデレラエクスプレス」というCMが放送されていたの覚えてますか？遠距離恋愛の2人が新幹線の最終電車を前にホームで抱き合っていて、ナレーションでこう語られるのです。

「東京駅14番線ホームから愛・希望・孤独・哀しみを乗せて、テールランプが遠ざかる。日曜日、東京駅発新幹線最終便、またの名をシンデレラ・エクスプレスと呼ぶ。」

放送されていた当時、このCMがすごく印象的だったのを覚えてます。これって逆に言えば新幹線だからドラマになると思うんですよ。山手線だったらこうはいきませんよ。「あずさ」や「北斗星」だったらもはや演歌の世界です。新幹線だからこそドラマチックな演出になると思うわけですよ。

確かこのCMが放送されていたのは今から15年以上前。ナレーションも若干時代を感じさせるようなセリフですが、それでも東京駅の新幹線ホームが放つ不思議な雰囲気はいまだに色あせていないような気がします。これはおそらく東京駅の特殊性がそうさせるんでしょうね。好むと好まざると東京は日本の首都です。普段、地方在住の人にとっては観光旅行であろうと、東京を訪れるのは多かれ少なかれ特別な意味合いがあるものです。ましてや大学進学や就職などで上京する場合はその心持ちたるや並大抵のものではないはず。そんな胸一杯の想いを抱いて踏み出す第一歩目が東京駅の新幹線ホームなのです。今でも東京駅の新幹線ホームに立つと、上京してきたときのことを思い出すことがあります。そんなとき、あらためて東京駅という存在の大きさを気づかされます。