祈りの歌声

この教会は日本のカトリックの総本山で、規模も施設もヒジョーにでかいのです。何より驚かされるのはその見た目。丹下健三が設計した大聖堂は上空から見ると十字架の形をしています。ちなみにこの教会、一昨年の春にパイプオルガンを新調しました。それまで40年間使い続けてきたオルガンが老朽化したということで3年がかりで新しいオルガンをイタリアから購入したそうです。今では新しいオルガンでけっこうちょくちょくコンサートをやっているらしいのです。実を言うと僕はパイプオルガンが大好きなので、今度時間を見つけてコンサートに行ってみようと思っています。

かつてこの教会へは何度か足を運んだことがあります。そもそも自分の住んでいる場所のすぐ近くにこんな大規模な教会があるということで、物珍しさでたびたび訪れては写真を撮影していました。中に入ったことはこれまで一度しかなかったのですが、とても静かで荘厳な雰囲気。当然ことながらパイプオルガンもしっかり設置されていました。というわけで、今日の目標はパイプオルガン。教会の荘厳さをアピールできるような写真を撮るべく、敷地の中へと入っていきました。

すると何やらいつもと様子が違います。敷地内にやたらと模擬店が並んでいるのです。しかもいろんな国の人たちが各地の料理を作って、模擬店で売っているのです。敷地内をぐるりと一周してみると、それこそホントに世界中の料理が並んでいました。何が起こっているのかサッパリわからないままウロウロしていると、目立たないところにひっそりと立て札が置かれていました。そこには「インターナショナルデー」と書かれていたのです。どうやら今日はいろんな国のキリスト教徒の人たちが集まるイベントが行われているようなのです。ということは、普段、日曜の午後は人が少なく静かなはずの大聖堂ももしや？と思い、すぐに大聖堂へと入ってみました。

すると案の定、満席でした。それどころか立ち見まで出る大盛況ぶり。パイプオルガンの撮影どころではありませんでした。どうやら今日はインターナショナルデーに合わせて拡大版のミサが行われているようでした。しかし、立ち見までしてみんな何を見ているのか気になったので、その場でちょっと様子を見ていました。すると、どうやら各国の人たちが賛美歌を披露しているもよう。賛美歌とは言ってもやはり東京カテドラルでやるだけあって、かなり本格的です。僕が大聖堂に入るのと時を合わせて、室内楽編成のバイオリン奏者たちが祭壇にのぼっているところでした。演奏はというと、かなり気合いの入ったもので、何の心構えもなくその場を訪れた僕は度肝を抜かれてしまいました。歌もまたかなり素晴らしく、ヒジョーに聴き応えのあるものでした。

演奏中、写真を撮りたいと思ったのですが、さすがに大聖堂の中であたりに人がたくさんいる状態で撮るわけにはいかないと思い、カメラは鞄の中にしまっていました。すると、ふと目の前を一眼レフカメラを持った人が横切っていくじゃないですか。しかもその人は僕の近場でバシバシ撮影しています。そういうことであるならば、と思い、急遽撮影の準備を整えます。そのようにして撮影したのが今日の写真です。大聖堂の中は想像以上に暗かったため、急ごしらえの撮影ではかなり厳しいものがありました。そもそもレンズの選択を間違えてしまったのですが、何とか雰囲気だけはとらえることができました。ここでふと、入り口付近を見てみると、立て看板に何か心にひっかかる文字が見えました。「NO PHOTO」という文字が見えたのです。やっぱりダメなんじゃないか！と思い、急いでカメラを鞄にしまいます。でも、そもそも写真撮ってる人は大勢いたんですよ。フラッシュたいてる人もいましたし。でもさすがに僕のカメラはでかくて目立つので、すぐに撤収しました。

演奏が終わると、みんな大拍手。僕も大拍手。確かに大拍手にふさわしい、素晴らしい演奏でした。しかしここで会場アナウンス。

「演奏はお祈りの一環でございますので、拍手はけっこうです」

そんなこと知りませんでしたよ。そもそもみんな拍手してましたし。宗教的なお約束事というのはたくさんあるのでしょうけれど、素晴らしい演奏を聴いたら拍手したくなるのは人情というもの。仕方がありません。

しかし、偶然訪れた教会で、思わず素晴らしい演奏を聴くことができて大変満足です。この教会では、ミサに限らずいろんな演奏会が無料、もしくは非常に安価で行われているようなので、今後もタイミングが合えば訪れてみます。